改札
何年か前に書いてたSSを思い付いたようにさらしてみる。
本当は、まっすぐ帰る積もりだった。
「晩飯、行く?」って言われた時に、どうしてイメージ通り断らなかったんだろう。
彼が気を使って誘ってくれることは予想できたのに。
自分の意志の弱さが少し嫌になる。
欲張りすぎた。
知らなくていい幸せを今さら知って、私はどうしたいんだろう。
古くて騒がしいお店は、餃子がすごく有名で、ドリンクはビールか烏龍茶くらいしかない。
自分の中でブームがくるとそれを繰り返し食べる彼の最近のお気に入りの場所だ。
並んで他愛ない話をしながら笑って、食事をする。
心の中では冷めた目で自分を見ていた。
一体何がしたいの。私。
散々会社の愚痴や共通の知り合いの話をしてお店をでる。
冗談を言いながらならんで歩いているうちに、あっという間に自分が乗る電車の改札の前に着いた。
「今日はありがとう」
「気をつけて。」
お礼を言って、改札を抜ける。
そこでやっと気付いた。
私は大馬鹿野郎だ。
振り返ると、彼はまだそこにいて、目があうと手をふってくれた。
その姿に胸に痛みがはしる。
なんて光景だろう。
なんとか手をふりかえして、そこからは早歩きでいっきにホームへ向かう階段を降りた。
彼からすれば、こんなことをするのは当たり前の事で、特に意味なんかない。
(厳密に言えば自分に何かをしてくれた人への感謝の表現だと思う)
ーーー自分にうんざりする。
金輪際、彼と二人きりでごはんに行くのはやめよう。(少なくとも見送って貰うのはやめよう)
見送って貰う事がこんなに嬉しくてかなしい事だとは思わなかった。
こんな思いは二度としたくない。
階段を降りると同時に、通過電車が風を巻き起こしながら走り去っていった。